Support Law (2nd proposed)
生活再建援助法案

大災害による被災者の生活基盤の回復と
   住宅の再建等を促進するための公的援助法


「阪神・淡路大震災被災地からの緊急・要求声明の会」が提案した「災害地に公的な生活再建援助のための市民による立法」第2次修正案(97/01/25)。



 前文

 日本国は「主権在民」を基本とする民主主国家である。日本国の社会で居住、生活するすべての市民は、つねに自らの生存・生活を守り、自らの社会の民主主義政治の形成、維持に対して必要な法制度の確立を発議する権利と義務を有する。
 雲仙普賢岳大噴火、北海道南西沖地震、阪神淡路大震災などを経験した日本国は、これらの自然大災害が市民の生命、生活基盤に重大かつ深刻な被害をもたらすことを認識した。国と自治体はこうした大災害の被害を直接受ける市民を守るとともに、生活基盤の回復を支援することが公益に合致し、それに基づく生活再建が、被災地復興に不可欠であることを自覚しなければならない。生活者の生活基盤の土台回復のために、公的支援を行うことは国と自治体の責務である。国と自治体は、その責務を実現するために存在する。
 以上の原理に基づき、市民の発議によって、大災害による被災者の生活基盤の回複と住宅の再建を促進するための公的援助制度として、この法律が制定された。国はこの趣旨に基づき、その適切な運用に努めるとともに、将来にわたって、被害状況に即して援助内容を改善しなければならない。

 第一条(目的)

 この法律は、前文に基づき、大災害において、被災地域に居住していた市民の生活と住居が被害に遇い、自助努力の基盤が破壊される状況に対し、被災市民の損失を補償するものではなく、国と自治体が、その生活基盤の回復を援助し、住宅の再建・確保を促進するための公的援助資金の給付・貸付を行うことを目的とする。

 第二条(定義)

 

  1. この法律において、大災害とは、災害対策基本法第二条第一項にいう災害の内、この法律の前文に示された雲仙普賢岳大噴火、北海道南西沖地震、阪神淡路大震災などにより想定される程度の自然災害による被害をいう。
  2. この法律において、被災市民とは、大災害において被災地域に居住し、その生活と住居に被害を受けた世帯をいう。

 第三条(生活基盤回復公的援助金の給付)

 

  1. 罹災証明の交付を受けた大災害の被災市民の生活基盤回復を目的として、被災市民の申請に基づき、次の金額の公的援助金を給付する。
    1. 全壊     五○○万円  具体的な金額については、市民及び国会
    2. 半壊     二五○万円  における議論によって得られたコンセン
    3. 一部損壊    五○万円  サスによる。

     但し、罹災証明の発行を受けていない被災者は、この生活基盤回復援助金の申請と同時に罹災証明の発行の申請を行なうことができる。以下同じ。

     

  2. 被災市民は本件の申請をするか、災害減免法等に基づく所得税の減免措置の摘要を受けるか、いずれか一方を選択することができる。
  3. 本項の申請及び支給は、大災害発生後三カ月以内に手続を終えることとする。

 第四条(大災害被災における貸付措置)

 

  1. 住宅再建援助金の貸付
     罹災証明の交付を受けた被災市民による住宅の再建に資するために、その申請に基づき、被災市民所帯主に対し、次の金額を住宅再建援助金として貸付けする。
    1. 貸付限度額  二○○○万円
    2. 償還期間    三○年
    3. 据置期間    一○年
    4. 利息       二パーセント
                 但し一○年間無利子

  2. 中小企業の経営再建援助金の貸付
     罹災証明の交付を受けた被災市民の経営する中小企業(資本の額、出資の総額が三○○○万円以下で、従業員が一○○人以下の会社又は個人)の経営再建に資するために、その申請に基づき、経営主体に対し、次の金額を中小企業経営再建援助金として貸付けする。
    1. 貸付限度額  一億五○○○万円
    2. 償還期間    三○年
    3. 据置期間    五年
    4. 利息       三パーセント
                但し五年間無利子

     

  3. 本項の申請及び貸付は大災害発生後一年以内に手続を終えるものとする。

 第五条(実施機関)

 この法律による生活基盤回復援助金の給付、住宅再建援助金の貸付等の実施は、被災市町村がこれを行なう。

 第六条(財政措置)

 国は、この法律に基づき被災市町村が被災者に対し給付し、貸付する資金については、予備費、補正予算をもってその資金の金(全?)額を補助金として交付する。

 第七条(不服申立て)

 この法律に基づく各援助金の給付、貸付の支給申請をなしたものは、実施機関のなした処分に対し、不服申立てをすることができる。

 付則

 第一条
 この法律は国会において制定された日より効力を生ずる。

 第二条
 この法律は、一九九五年一月一七日に発生した阪神淡路大震災における被災市民に対し、遡及してこれを適用する。阪神淡路大震災の被災市民が既に災害減免法等に基づく所得税の減免措置を受けた場合は、その減免税額相当額を控除して支給する。


生活再建援助法案(第二次修正案)解題

一、一九九六年五月に生活再建援助法案を発表して以来、被災市民に対する公的援助の必要性の論議はますます広まった。世界的にも、近年類を見ない都市直下型の阪神淡路大震災を経験したこの国と社会は、長期化・深刻化する被災市民の生活基盤回復のために、どのような教訓を引き出すか、その教訓の上に立って、自然と人類の共生システムをより充実させる観点から、「自助努力と被災者に対する公的支援」に関する市民的コンセンサスを形成し、いかなる制度を確立するか、が問われている。
 「災害による個人被害の回復は自助努力が原則であるとしても、自助努力の基礎が失われているような状況を放置することは著しく公益に反するもので、行政がその支援を行うこと」に公益性が認められるとする考え方(平成四年度国土庁委託調査報告書の見解)は、今やこの国における圧倒的多数の市民に支持されているといえよう。
 生活再建援助法案は、こうした考え方に立脚した、新しい恒久的な制度の確立を市民の側から発議したものである。いつ、どこで、誰が大災害に遇うかも知れない災害大国のこの国は、この法律が制定されることにより、生活再建が公的支援によって基本的に保障されるとともに、その結果、社会・経済秩序の維持・発展が確保される基本システムが発揮される社会となるのである。この法案は「市民立法」案と呼称され、広く市民の中で議論されるとともに、国会議員の中でも衆・参あわせて七八議員(一九九七年一月二五日現在)の賛同を得られるに至っている。
 議論の発展は、同時に議論の深化を意味する。この間、生活再建援助法案に対して寄せられた意見や批判をふまえて、ここに、策二次修正案を市民の前に提示する。

ニ、被災市民に対する公的支般と「個人補償」について
 「個人補償」とは、被災者の被った財産的・精神的損害につき、行政に発生・拡大の責任があることを前提にその補償を求めるものである。
 生活再建援助法案ほ、行政の帰責事由を問題にするのではなく、「個人補償」を実現するものではない。あくまで、被災市民の自助努力の土台回復のために、そのレベルの公的支援をすることに公益柱を認めるものである。公共施設の復旧には多額の公的補助金が投入されているが、一方、生活者の自助努力の土台が破壊されているのに、その土台回復のための有効な公的支援策が採られていない状況が続いている。こうした状況を放置したままでは、この国の社会・経済秩序の危機を真に脱却しえないとの認識こそ、生活再建援助法案の基本的理念である。
 第二次修正案は以上の考え方を第一条(目的)の中に明記した。
 この法律による公的支援は、自助努力を原則としつつ、その土台を公的に確保することにより、生活再建を促進することを目的としてなされるもので、恩恵行政ではなく、「焼け太り」等という非難も該らない。災害に基因する、生活基盤の破壊に対する、生存権保障としての権利性が認められなければならない。

三、所得税の減免制度との関係について
 被災市民は災害減免法、もしくは所得税法による災害雑損控除をなすことのいずれかにより、所得税の減免措置が受けられる。これは、担税力が災害により低下した被災市民の生活が、早期に安定を得られるよう工夫された制度で、広い意味で公的支援の一つである。
 阪神・淡路大震災の場合、確定申告期限前に発生したことやその規模の大きさから、雑損控除除の適用に特例が認められ、又、災害減免法の改正が行われた。雑損控除は所得額に関係なく、三年間繰越計上が認められ、改正災害減免法によっては次のような所得税減免か受けられる。この二つの制度は選択的に適用される。

     所得  五○○万円以下    税額  全額控除
          七五○万円以下         二分の一軽減
          一○○○万円以下       四分の一軽減

 こうした災害減免法等における所得税減免の効用を考慮し、第二修正案では、原則として公的援助金の支給を受けるか、現行の災害減免法等の適用により所得税の減免を受けるかを選択制にすることとした。これにより、結果として災害前の所得の多い人に厚くなっている現行の所得税減免措置における不平等性を克服し、同時に、より低所得者の自助努力の土台回復を促進することとなる。
 阪神淡路大震災の被災者に遡及適用する場合は、既に減免措置を受けている減免された所得額を控除したうえで、公的援助金を支給することにより、今後の制度と同様の結果が得られることとなるので、このことを明記した。

四、財源ついて
 国家財政危機の折、こうした公的援助金を支出する税源をどうするのか、という意見がある。災害発生の時期や規模は、いまだ事前に予期しえないものであり、今後、今回を上回る大被害をもたらす災害が発生する場合のことをも想定しなければならない。そうした場合には、市民の生活の危機はそのまま、この国の危機となり得ることは想像に難くない。このような時、生活者の生活再建に何らの公的支援なしに、この国は危機から脱却することができるであろうか。
 災害復旧の財源は「余力」をまわすのではなく、資源の再配分(予算配分の見直し)により対処すべきことが原則なのである。これは同時に、被災市民の労苦を、市民全体の肩で分かち合うことを意味し、自然と人類の共生システムとしては、当然の原理であって、「財源がない」という批判は該らない。
 この国でも、関東大震災の翌年には陸・海軍の予算減額の措置まで採られている事実がある。
 ところで、この費用分担について、国のみではなく被災自治体も負担するか否かが問題となるが、被災自治体の負担は結局被災市民の負担を意味するので二重の負担を課すことになるから、全額国費においてなされるべきであろう。

五、遡及措置について
 寄せられた意見の中で、今後の大災害に備える施策としては検討できるとしても、遡及はどうかという意見がある。
 しかしながら、前述した所得税の減免制度に関する法改正の例等においても明らかなように、遡及力が基本的枠組みとしてなされている。個別・具体的な事例に対処した積極的行政施策を確立する法律は、遡及はむしろ当然であって、法律上不可能とうことではない。
 確かに、刑罰法規のように不遡及の原則が人権の観点から確立されている場合があるが、これは行為時に何が犯罪で、どのような罰則が加えられるかが明らかでないのに、遡及して犯罪化することは許されないという原則であって、本法のような場合は該らないのである。
 かえって、阪神淡路大震災においては、この二年間に亘り、災害救助法の適用における不十分さ、アンバランス(住宅の応急修理規定や生業資金の給付規定、現金給付規定等)が見受けられ、いくつもの特別施策においてもミスマッチが生じ、その被害が長期化し深刻化していることは見逃せない。
 第二次修正案では、こうした経験をふまえ、公的援助金の給付については災害発生後三カ月以内に、再建資金の貸付については一年以内にその手続を終えることを明記した。早期の自力再建が、こうした援助により促進され、公費の効果的支出にも資するからである。

六、一日も早く、生活再建援助法案に基づく公的支援策が確立し、当面する事態に対処しうる制度が実効をあげるよう、広く深い、市民と国会における議論を期持する。

弁護士 伊賀 興一


 出典:「阪神・淡路大震災被災地からの緊急・要求声明の会」の資料より市民の意見30の会・東京が
     HTML化した。


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